四代目日枝玉峯、日枝陽一
鎌倉時代から始まる歴史と伝統を誇る「赤間硯」

  • 2023年2月23日
  • 2023年12月10日
  • 作家

1911年に源頼朝が鶴岡八幡宮に奉納したともいわれる赤間硯は、山口県宇部市や下関市周辺で作られている歴史と伝統を誇る硯です。

石英や鉄分を多く含んだ赤間石と呼ばれる石を原料としていて、硯が生み出す墨汁は、発色がよく、かすれることの少ないに伸びやかな文字を書くことができると言われています。

製作にあたっては、連綿と技を受け継いだ職人が、美術品のような作品を一つ一つ仕上げていきます。

山口が誇る「赤間硯」の魅力を語る

── 日本にもいくつか硯の産地があると思いますが、その中で赤間硯はどのような魅力がありますか?

赤間硯はほかの硯と比べきめが細かく凹凸が小さいのが特徴的です。ただ中国にしても日本にしても、硯の原石はそれぞれの産地で土地の成り立ちが違いそれぞれに良さがあるため一概にこれが一番良いというものはありません。

山口県の赤間硯は、固形の墨を磨る力があり、きめが細かいので粒子を細かくしてくれます。墨の粒子が細かくなればなるほど筆が墨を多く吸ってくれて、文字を書いてもかすれずに伸びてくれます。

今の世の中は、ほとんどの方にとって硯とはただの墨汁の皿となっていて、実際に固形の墨を磨らなかったり、硯を一つしか持っていため、硯によってどういう違いがあるのか分かっていないと思います。

赤間硯を通じてその違いを理解していただくことで、お客さんも好みの石を選べるようになると思います

──赤間硯を通じて豊かさと喜びを届ける

墨を磨る際には、奥行きが広い方が扱いやすくなります。また、自分が気に入った色であったり好みな形、デザインなど、自分だけの硯を持っていると、ほかの人が持っていない特別感を味わえます。

また、硯は墨をつくりだす道具ですので、書家や手紙を書く方が満足に仕事ができるような道具に仕上げることで、

伝統的な書に携わる豊かな時間を生み出していきたいと作品作りに取り組んでいます。

硯を通じて受け継がれる思い

岡田裕さん作品飯椀

── こだわっている部分やこれだけが守っている伝統というものはありますか?

硯を利用していただく中で、固形の墨がこすれないと言われないように、墨をこすりやすいものを作っています。そのため、表面を研磨する泥砥石(どろといし)を近辺の山まで自ら取りに行っています。

硯と泥砥石にも相性というものがあり、泥や石の堅さ、粗さが合わないと思った通りの硯ができないので、泥砥石は、厳選して土地の成り立ちが似通った場所で取った方が良いです。

最近の硯の生産現場では、泥砥石を自分で取りに行く人や硯の産地に作り手が直接行っている人がほとんどいないため、昔に比べると良い硯が減ってきているというのが現状だと思います。

今では年々、技術が進化してきて耐水ペーパーや人工砥石というものもできてきて、手間をかけず安く抑えようとする生産者が増え、その結果、形は伝統工芸だが本物ではないものが増えてきているように感じます。

伝統の硯を後世に伝えること

── 伝統工芸を未来に残すために

今、子供たちに赤間硯を貸し出し赤間硯を体験してもらうという取り組みを行っています。口頭で硯の違いを言ってもなかなか伝わらないので子供たちに実際に赤間硯を使ってもらうことで、

赤間硯がどういうものなのか、どう扱わなければいけないのかを肌で感じてもらっています。本物を使ってもらうことは口頭で説明することより効果的だと思います。

本物を作って正しい情報を正しく伝えることが大切であり、伝統工芸にしても伝統文化にしても一度絶えたものを復活させる取り組みも行われていますが、重要なのは、それが正しい「本質」であることを伝えていくことです。
多くある伝統工芸の中でも、赤間硯は一度も絶えていないという歴史があります。

今でも、引き継いでくれる人がいる、作ったものを購入してくれる人がいるというのは赤間硯に真の魅力があるということだと思います。

赤間硯は地下資源を使って作ってますのでその資源がいつなくなるかは分かりませんが、無駄な取り方をせずに良いものを作って未来に残していく。
そうするためには、使い手の方がいなければ成り立ちません。今後は、使い手を増やしていく活動を行っていくことも大事だと思います。

──硯は硯で全うする

「硯は、売れそうもないから、ほかに売れそうなものを作ればいいじゃないですか」「この石を使ってなんで他の物を作らないんですか」っていう意見もありますが、

この石は硯になるためにできたような石なので、あえて他の物を作るよりも硯として全うさせる、それが僕たちの仕事だと思っています。

 

日枝陽一さんの作品のご購入はこちらから
artrip山口オンラインショップ