一つひとつの作品にストーリーを。「波多野英生との作陶体験物語」

萩市の波多野指月窯「波多野英生さん」へのインタビュー後半は萩焼体験ツアーについてです。他のツアーとは一味違ったプレミアムな体験ができるツアーについてお伺いします!

前半の記事

萩焼の420年の歴史と伝統を受け継ぎ、今も第一線で作品を作り続けている窯元「波多野指月窯」。今回は、波多野英生さんへのインタビュー前半です。 波多野指月窯の萩焼体験ツアーを企画しているNTAトラベルが指月窯の特徴やこだわり、歴史につい[…]

提供する側も「やってみたい」と思うツアーに

波多野英夫さんと萩焼

── 体験ツアーを始めようと思ったきっかけを教えてください!

NTAトラベルの阿川社長からの提案がきっかけです。それまでは基本的に、仕事としての陶芸教室をやっていませんでした。

今までになかったコンセプトで何か出来ないかというご相談をいただいて、打ち合わせを重ねていくと楽しいアイデアをたくさん出してもらえました。そこでこちらが逆にやってみたいという気持ちになったところがスタートです。

最終的に、萩の他の作家や窯元がやっているような陶芸教室とは少し違う切り口のツアーが出来たと思っています。

── 波多野指月窯の体験ツアーは、一般的な陶芸教室よりもプレミアムなツアーとしています。 参加者にはどう楽しんでもらい、波多野さん自身はどのような思いで教えているんですか?

まず、普段作家が作っているそのままを体験してもらいたいと思っています。僕は、作る物はもちろんですが、作品にどれだけの気持ちが入るかというところにすごく気を遣いました。

指月窯は工房のすぐ横に粘土や釉薬を作る作業場や登り窯があります。そこで体験前に、「皆さんがろくろで作る器は、これだけの材料が揃うまで数ヵ月~年単位の時間が掛かるんですよ」と、作品が出来るまでのストーリーも絡めてからものづくりに入っています。

形を作って終わりではなく、見届けること

指月窯工房

体験教室で形を作るのはだいたい半日で終わります。そこから2、3日後に削りという工程から始めて、化粧掛けや天日干し、窯で焼くまでに1~3ヵ月ぐらいかかります。

その焼き上がるまでの段階を写真に撮って、コメントを付け、器が育って行くところを随時届けています。僕にとっては当たり前ですが、皆さんは知らない工程です。正直大変ですが、お客さんは絶対喜んでくれるなと思い、始めました。

萩焼の天日干しの様子

天日干しの様子(体験者の作品)

── レポートはとても評判が良かったですね。自分の器が形になる過程が毎回見られると、みなさんすごく喜びます。「感動して、嬉しいです」というお返事がいっぱいありました。

僕も今のところ楽しいです!

萩焼体験の様子

── 波多野さんにツアーのネーミングを考えてもらった際、「波多野英生との作陶体験物語」と名付けていただきました。ただの体験ではなく、作品にまつわる全てがストーリーになるように名前を付けていますよね。すごく素敵なネーミングだと思っています。

名づけの事は正直、忘れていました。(笑) 作ったところから徐々に器が育っていく過程を見れることが、お子様でも楽しんでもらえると思います。

あとは指月窯のコンセプトとして、食器や花瓶など「使うこと」を想定しているので、製作中は横でアドバイスをしながらやっています。余程のことがない限りはみなさんが作りたいものを作ってもらいますが、時々難しい所は方向修正をすることもありますね。

「経年優化」と「育てる器」を楽しんでほしい

── 萩焼には、普段使いできるものも沢山あると思うのですが、萩焼に馴染みがない方に伝えたい事など教えてください

萩焼はよく、育てる器と言われます。

粘土の性質や釉薬の性質から、使うと少しずつ色が変わったりするんですね。経年劣化の反対で経年優化と言われ、使っていくと風格が出るという感じです。

器を育てて楽しむ文化、それを楽しむ遊び心を持って欲しいです。

磁器やガラスの器は基本的にずっと使っていても変わりません。対して萩焼は使うとどんどん色が変わり、半年程、早ければ1週間~1カ月でかなり変わります。特に指月窯のものは変わりやすいように原料をブレンドしています。

自分の使い方次第で変わる「萩の七化け」

── 変わっていくのは萩焼だけですか?唐津焼や備前焼なども有名ですが、他の焼き物と違うのでしょうか。

まず、有田焼など磁器と呼ばれる石が原料の焼き物は、液体が中に染み込まないので基本的にあまり変わりません。唐津焼などは陶器なのでゆっくりしみ込みます。対して萩焼は染み込み方が早いので化け方が早いです。そういったところを楽しめる方には萩焼を育てる楽しみを味わって欲しいですね。

── 貫入はもっと時間をかけて入っていくものだと思っていました。貫入はいつが完成とかあるのでしょうか

それはいろいろですね。例えば10年20年ぐらいかけて入っていくものもあります。江戸時代の古萩のようにするには10年、20年、30年、50年かかるかもしれないです。

ただ、骨董的な焼き物は好みでないという人もたくさんいますので、そこは趣味の世界です。好き嫌いが分かれますが、萩焼が好きな方はやはりその変化が好きですね。

焼く際に、素地と釉薬の収縮率の差により生じる細かいヒビのこと。割れるときのヒビや傷とは違うものです。

── 面白いですよね。使う人・使い方で貫入の入り方や色合いが変わってくるんですよね。緑茶をたくさん飲む人やコーヒーを飲む人で変わってくると聞いた事があります。

ゆっくり化けるのを楽しみたい方は、すぐに染み込まないように、最初に水に浸けるとすぐには染み込まないんです。逆にどんどん化けさせたい人は、もうドバっとコーヒーや抹茶を入れると割と早く化けます。

── スピード感も自分で調節出来るのは面白いですね!

波多野英生さんの作品

波多野英夫作品

波多野英生さん作品:萩角花入

── 波多野さんの代表作や作風を教えてください

ろくろでシュッと端正なものも好きですが、より立体的なオブジェ寄りの作品も好きで製作しています。ですが、基本的にどこかで使える事は考えています。

使用時にも、例えば食器でも花瓶でも必ずお花が入ったり料理を盛ることで完成するように、と最後の一歩手前で止めるようにしています。

すごくゴテゴテ作る作風もありますが、僕は最後、少し物足りないぐらいで止めるようにしています。

ですが、その止め時が難しいです。特に自信が無い時ほど装飾をやりすぎてしまいますね。逆に作品に自信がある時はパッと勢いよく止められます。迷っている時ほど装飾しすぎて返って作品に勢いが無くなってしまいます。

萩珈琲碗

波多野英生さん作品:萩珈琲碗(ソーサー付)

── 最後に、波多野指月窯おすすめの作品や今後どのような作品を作っていきたいか教えてください

おススメはいくらでも言えるのですが、やはり実際に手に取って触って好きなものを選んで欲しいです。

作りたい作品に関しては、今のところは大きい作品を作りたいと思っています。 ですが、やはり僕はどうしても日常使いが出来るものがすごく好きなのでバランスよく作っていきたいです。

取材を通して

観光地での体験ツアーといえば、体験してその場を楽しむことで思い出となります。しかし、「波多野英生との作陶体験ツアー」は、体験に至るまで・体験・その後の過程をすべてを共有することで一つの器が出来るまでのストーリーがそれぞれに刻まれます。

例え他と同じ形の器や、不格好なものになったとしても、自分の想いのこもった器は、他の何にも変えられないものとなるでしょう。

指月窯の体験ツアー

山口県に旅行に行くなら、萩焼をお土産にするだけではなく、体験ツアーで自分だけの萩焼を作ってみませんか。 萩市には今でも沢山の窯元があり、現役の作家指導の下、所要時間わずか2、3時間で気軽に本格的な陶芸が体験できます。今回は[…]

波多野英生プロフィール
多摩美術大学彫刻科卒業後、京都市立陶工高等技術専門校成形科修了。
さらに、京都市工業試験場修了の後、父善蔵に師事し技を学ぶ。
400年の伝統文化を継承する責任感を胸に、土と炎で自らの感性や思考を表現し続ける。
日本伝統工芸展入選など数々の受賞や個展を重ね、現在に至る。
父・善蔵氏は、文部大臣賞などの多数の受賞歴に加え、平成14年には山口県無形文化財の一人に指定された。